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後編
言葉が、出なかった。何を言えばいいのかも、分からない。
唖然とした表情で足元の浮橋を見つめ、深山はただただ黙っていた。
全部が、勝手な思い込みだったと分かって。全部が、思い過ごしだったと理解して。己の弱さと、現実から逃げていた結果に困惑を隠せない。
浮橋は自分とは違う世界に生きている人だ。だから、こんな幸せが続くはずないと決めつけていた。それがまさか、彼を傷つけていたとは予想外にも程がある。むしろ、早く深山から離れたくてしょうがないものだと考えていた。
二心ありと踏んで、その相手が女性だと知り、もうこの恋は終わったのだと諦めていたのに。相手が浮橋の実姉であった、事実。
まるで都合のいい夢を見ている気分だ。
顔を上げた浮橋と目が合う。静かに立ち上がった彼を見上げて、深山は思わず後ろに腰が逃げた。だが、すかさず腕を掴まれ、引き戻される。
「ミヤちゃん。もう逃げるのは、終わりになさい」
カウンター越しで深山たちのやり取りを見ていたマスターが、頬に手を当てて言った。
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