後編

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後編

「お世辞、ねぇ。好きなところなら、他にも沢山あるさ。まず、勉強してる時の横顔が格好いい。俺の知らないこと知ってるのも凄いと思う。ボーっとして、大学のベンチに座ったまま日向ぼっこしてんの和むし、猫舌で熱いの食べらんなくて必死に冷ましてるのも可愛い。涙もろくてテレビのCMにまでウルウルしてんのに、ホラーとスプラッター映画がいけるギャップが好き。でも一番は、俺が笑うと嬉しそうに笑い返してくれるとこ。俺のこと好きって全身で訴えてくるとこ。もう、たまんない」 「やめて、よ」  真っ向からそんなことを告げられて、声を震える。強い言葉を前に、体もまた震えそうになる。 「お前が自分のこと嫌いっていうなら、その分俺が好きになる。肯定の仕方が分からないなら、一生かけて俺が肯定し続ける。変わりたいんなら手伝うし、俺も一緒に変わる。……でも、俺らに一番足りなかった対話だけは、俺一人じゃできない」  掴まれた腕が痛い。それだけ真剣なのが伝わってきて、怖いくらいだった。 「やっと、やっと決心がついたんだ。今なら、まだ手放せる。でも、これ以上は駄目だ。俺だって欲が出る。肯定なんてしなくていい、変わらなくていい、何もかも今のままでいいっ。だから、俺と別れてよ……!」 「絶ッ対に別れてやらねぇ」 「浮橋っ」 「欲なら出せばいいだろっ? お前のモンだって、言いふらすくらいの独占欲見せてみろよ! 俺は、お前が他の奴と楽しそうにしてんの、大っ嫌いだ。特に男は完全にアウト。俺の分からない薬学の話とか目の前でされんの、スゲーむかつくし。学食で待ち合わせしてたのだって、お前の友達に俺が一番だって見せつけるためだ。お前に言い寄ろうとした女を何度か牽制したこともある」 「……っ?」     
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