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草間
「人を騙すくらいなら騙される方が幸せだよ」
かつてそう言いながら笑う同僚がいた。そんなことはない、詭弁だ。草間は騙されて全てを失った。仕事、家、そして友人までも。良かれと思ってやったことは全て裏目にでた。信じる方が馬鹿だったのだ。
「草間さん、なにも会社まで辞めなくても」
「いえ、もうこれで最後にさせてください。会社にもこれ以上の迷惑はかけられません」
「草間さんは良い人だから、きっとこの先いいことありますよ」
友達を正しく選ぶことさえ出来なかった情けなさに、何を言われても心に響かない。
「お元気で」
世を捨てるのではなく、世の中に見捨てられたのだ。結婚相手にはとうに見限られた。兄弟も子供もいない、親は既に鬼籍に入っている。お前だけが頼りだと頭を下げた友人は借金を残して煙のように消えた。借金の形にコツコツと積み上げてきた僅かばかりの貯金と家はなくなった。全てを失いこの先生きていく意味さえ失った。
「思っていたより古いな」
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