草間

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 母方の曾祖母が住んでいた家が唯一残ったものだった。過疎化が進み忘れさられて山郷に残る廃墟、資産価値もないと手元に残ったものだった。雨風がしのげればそれで良いとその家へ越した。自殺するほどの勇気はない、かといってやり直すだけの意味も持たない人生。全てを諦めた草間にとってこの場所は終の棲家となるだろう。  野菜を育て、鶏を飼い湧き水を使う、朝日と共に起床し太陽が沈むと眠りにつく。花に語りかけ、木々の歌を聴く。ようやく生活のリズムがつかめたのは移り住んで二カ月ほど過ぎたころだった。  「天気も良いし、今日はこの辺りを歩いてみるか」  樹齢百年は超えるであろう古木が草間の話し相手だ。枝が風も無いのに揺れた気がした。背の高い草がこちらへおいでと誘っているように見えた。けもの道をたどり山の中腹へと向かう、さわさわと若い草が足元をくすぐる。  「なんだここ?」  倒れ風雨にさらされた石灯籠、壊れ落ちそうな鳥居。小さな神社が山の中腹にあった。  「神さんでも見捨てられる世の中か」  小さな(やしろ)の扉は風雨にさらされ朽ちて今にも壊れて落ちそうだった。その扉をぐいと押し開く、かび臭い空気が外の新鮮な空気と混じる。誰かに見られているそんな気がして、草間が天井を見上げるとそこには見事な白竜の絵があった。  「水神様か、可愛そうに」  小枝を束ねて簡単な箒とし、社の中に風で運ばれていた落ち葉や枯れ枝を外に掃き出した。軽く両手を合わせる。  「見捨てられた俺と、見捨てられた神さんか。これも何かの縁だ。また来るよ」     
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