死が分かつまで

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 町へ行くのは月に一度、本当に必要なものを買うためだけにと決めていた。白亜を連れて行こうと何度か誘ってみるのだが白亜は頑として山から離れないと答えた。  「そうですか。ずいぶん暖かくなりましたからね。必要なものあるでしょう。そろそろ花も咲くころですよ」  「ああ、そうだな。油と塩を買ってくるよ。一緒にくるか?」  白亜はかぶりを振った。  「私はここで待っています、お気をつけて。必ず戻って来て下さいね」  「おまえのそば以外に帰る場所などどこにもないよ、半日で戻って来る」  食べさせたいものもある、見せてやりたいものもある。けれども白亜の世界はあの山と、草間のいるあばら家だけだという。他にはなにも要らないからただ帰ってきてくださいと白亜は言う。  「さて、そろそろ帰るか」  必要なものを買うだけだ大した時間はかからない。バスを乗り継ぎ、そして後はひたすら歩くそれだけのことだ。バス停で通りの車を眺めながら立っていると一台のセダンが目の前に停まった。  「草間さん?え?草間さんですか?」  「……富岡さんか?」  「はい、今は結婚して木村ですが。お久しぶりです、あれから一年ほど経ちますか?」  「ああ、懐かしいな」  「バスでここからお帰りですか?送りますよ。乗ってください」     
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