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真珠の涙
「……そろそろお別れだ」
美しい白い手が、深く皺の刻まれた草間の顔を包み込んだ。もう身体を起こすことも出来なくなった草間はそのしなやかな手に震える手で触れた。それを皮切りに草間の日に焼け、干割れた肌に雨のしずくのように落ちてきた真珠の粒がほろほろと転がった。
「駄目です。どうか、どうか私を独りにしないでください」
「泣くな、もう十分に生きた。ありがとう」
「お礼の言葉など要りません、ただ生きていてください。私をおいて逝かないでください」
零れ落ちてくる涙をとめる術を持たない男は、その美しい男の手を自分の手で包み込んだ。愛していた、誰よりも。愛されていた、誰よりも。それだけは真実だった。
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