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「あのオヤジの息子だからね」
千尋が冗談で言ったのか、本気で言ったのかはわからないが、笑えないことだけは確かだ。
着いたエレベーターに人が乗っていないのを確認してから、和彦は気恥ずかしさを押し殺しつつ、千尋の手を握る。二人は手を繋いでエレベーターに乗り込んだ。
案の定というべきか、千尋の部屋の玄関に足を踏み入れると、鉄製のドアがゆっくりと閉まるのも待てない様子で余裕なく千尋に抱き寄せられた。
「千尋っ……」
「ダメ。俺もう、我慢できないっ」
有無をいわさず唇を塞がれ、痛いほど強く唇を吸われる。むしゃぶりついてくるような必死のキスに、和彦の脳裏にあることが蘇る。初めて千尋と交わしたキスだ。
数回一緒に食事して、デートらしきものも経験して、千尋の元気の有り余りっぷりに呆れつつも、いままでつき合ってきた相手にはなかった圧倒されるほどの生気を感じた。千尋と初めて交わしたキスは、その生気をぶつけてくるような激しいものだったのだ。
熱い舌を口腔に捩じ込まれ、感じやすい粘膜を探られ、舐め回される。いつの間にかドアは閉まり、千尋の勢いに圧されるように和彦は、ドアに背をぶつけていた。
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