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今、四十五歳だそうだが、年齢からくる衰えは、この男からは一切感じられない。仕立てのいいダブルスーツに包まれた体は偉丈夫と表現してもいいだろう。いまだに賢吾の素肌のほとんどを見たことがないが、抱き締められるたびに和彦は、引き締まり、張り詰めた筋肉の存在を感じるのだ。
そのうえ、全身から発している威圧的な空気や、圧倒されるほどの力強さ、男としての色気が、賢吾の存在をより強烈にしている。
強烈すぎて、凶悪。狡猾で残酷な性格も合わせれば、完璧だ。
そんな男に目をつけられ、こんなマンションに住まわされることになった和彦は、自分が置かれた状況を嘆く気力も失われつつあった。
囲われ者らしく、部屋にじっとしていて、主の訪れを待つだけの生活――などは待っておらず、引っ越し前後から急に和彦は忙しくなった。
独立する意思などまったくなかった一介の若い医者が、突如としてクリニックの経営を任されるのだ。開業資金や空きテナント探しといったことは長嶺組に一任するとしても、実際にクリニックで患者を診ることになる和彦は、必要な医療機器や備品などを選定しなくてはならないし、そのことでクリニックの開業専門に手がけているコーディネーターからアドバイスももらわなくてはならない。
真っ当な準備の裏では、医師会や役所に提出する必要書類についても、〈工作〉しなくてはならなかった。賢吾がかつて言っていたが、クリニックの経営者として、別の人間を立てることにした。つまり名義を買うのだ。
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