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「今、すごく暗い顔してた」
そう言われた瞬間、和彦は反射的にバックミラーに視線を向ける。三田村がこちらを見ているのではないかと思ったが、まっすぐ前を見据えている。
「……どうもしない」
和彦が首を横に振ると、千尋は握った手を持ち上げ、指に唇を押し当てた。
「先生のそんな顔見ると、すごく責任を感じる。そもそも俺とつき合ってたから、オヤジに目をつけられたんだし。先生、普段の様子が前と変わらないから忘れそうになるけど、こっちの世界に無理やり引きずり込まれたんだよね。しかもオヤジと俺が、先生の両足に鎖をつけた」
いや、と千尋が小さく洩らす。そして自分の左腕に触れた。
「蛇かな。蛇が、先生の体に巻きついて、がんじ搦めにしちゃった」
千尋は、和彦が父親の背中の刺青を見たことを知っているのだろうかと思った。それとも、体の関係を持っている以上、見ていて当然と考えているのか。
「――……少し前までは、こうなったのはお前がきっかけではあったけど、お前のせいじゃないと思うようにしていた。だけど今は、違う」
「そうだね。俺は、先生をオンナにしたからね。罵倒しても、詰ってもいいよ。だけどそれでも俺は、嫌がる先生を組み伏せてでも抱くよ」
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