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子供が強がっているわけでもなく、強い光を放つ目で千尋は淡々と話した。その言葉には、そこはかとなく凄みが漂っている。
「俺の家が普通だったら、全力で先生を口説いて、一緒にいてもらっただろうけど、現実はこうだ。しかも、先生はオヤジにあっさり奪われるし。そうなったら、俺が取れる手段なんて限られてる。先生は嫌で嫌で仕方ないだろうけど、俺はこのやり方を貫くよ。――先生をオヤジに独占させたくないから」
「千尋、お前……」
和彦は取られていた手を抜き取り、千尋の頬を撫でてやる。途端に、明るく笑いかけてきた。
「こいつもいろいろ考えてるなー、とかって、今思った? 胸がときめいたりとか」
「……シリアスを決めるつもりなら、もう少し堪えろ。胸がときめく暇もなかった」
「先生は、まじめな俺のほうがいい?」
千尋の手が首の後ろにかかり、額と額を押し当ててくる。三田村が運転していることなど、まるでお構いなしだ。
「まじめとかふざけているとかじゃなく、出会った頃のお前がいい。ぼくはもう、お前の本当の顔がどれなのか、わからなくなってきた」
「いつも先生に、悩みがなさそうだと言われてたときが、素の俺だよ」
「そうなのか?」
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