第24話(1)

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『佐伯家の人たちも、せっかちだ。君の居場所を早く聞き出せと、急かされているところだ』  ああ、と声を洩らした和彦は、コンビニの店内へと視線を向け、所在なく前髪を掻き上げる。 『わたしが君に肩入れしていると察したら、あの家の人たちはどんな手段を取るかわからない。ことを大げさにしたくないというのは本音だろうが、それ以上に、英俊くんの国政出馬が公になる前に、厄介事を片付けてしまいたいはずだ』 「……ぼくは、厄介事か」  さすがに里見は、上辺だけの慰めの言葉は発しなかった。佐伯家の中での和彦の存在がどんなものか、里見はよく知っているのだ。 『本当は、君が佐伯家に出向いて、安心してほしいと一言いえば一番なんだろうが』 「会いたく、ない……」 『だったら、わたしと連絡を取り合うしかない。それだけで、君の家族も少しは安心できるはずだ。言いたいことは、わたしの口を通して君に伝えられるんだ。そうしているうちに、いつかは状況も変わるかもしれないしね』  そうだろうか、と和彦は思う。佐伯家を出たときから、和彦は家族を必要としていなかった。家名を汚さないという最低限の役目を果たしていれば、関わる必要はなかったのだ。そもそも佐伯家が、和彦を必要としていなかった。     
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