第4話(1)

14/17
7922人が本棚に入れています
本棚に追加
/2987ページ
 千尋の唇を首筋に押し当てられたところで、和彦は弱音を吐きそうになる。もう、立っていられなかった。それに、思うさま、快感を貪りたくてたまらない。 「千、尋――」  和彦が口を開こうとしたとき、突然、側で派手な音楽が鳴った。千尋の携帯電話の呼出し音だ。最初は無視しようとしていた千尋だが、すぐに耐え切れなくなったらしく、渋々といった様子で電話に出た。 「もしもしっ」  荒っぽい口調で千尋が応じる間に、和彦は乱れた呼吸を整えながら、肩からずり落ちかけたバスローブを羽織り直し、しっかり紐を結ぶ。腰が疼いて、今にもその場に座り込んでしまいそうだ。 「あー、わかったよっ。すぐに降りる」  電話を切った千尋が、ふて腐れた顔で唇を尖らせる。すっかり格好を整えた和彦を見て、さらに機嫌が悪くなったようだ。和彦は何事もなかった顔をして、千尋の頭を撫でた。 「残念だったな、時間切れだ」 「……先生、なんか嬉しそう……」 「そりゃもう、お前がプリンをお土産にくれたからな」  好き勝手された仕返しとばかりに、ニヤニヤと笑いかけてやると、千尋が珍しく情けない顔となる。 「そんなにイジメないでよ……」 「人聞きの悪いこと言うな。イジメられたのは、むしろこっちだ。お呼びだろ。さっさと帰れ」     
/2987ページ

最初のコメントを投稿しよう!