第4話(1)

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 和彦は千尋の腕を取り、玄関まで引きずっていくと、ぽんっと押し出す。芝居がかったように肩を落とした千尋がやっと靴を履き、和彦はひらひらと手を振ってやる。 「気をつけて帰れよ」 「……本当に嬉しそうだよね、先生」  そんな一言を残して千尋が玄関を出ていき、ドアが閉まるのを見届けた和彦は、ほっと熱を帯びた吐息を洩らしてから、慌てて鍵をかける。そのままドアが寄りかかり、自分の体を抱き締めるようにして身震いしていた。  まだ、下肢を千尋の手にまさぐられているようで、妖しい感覚が這い上がってくる。  ふと感じるものがあって振り返ると、三田村が廊下に立ってこちらを見ていた。和彦はちらりと笑いかけると、側に歩み寄る。 「今夜はもう、帰ってもらっていい。プリンが食べたいなら、お裾分けするが」 「――大丈夫か、先生」  こちらの言葉など無視しての三田村の発言に、思わず睨みつけてしまう。やはり、脱衣所で和彦と千尋が何をしていたか、聞こえていたのだ。  相変わらずの三田村の無表情を眺めて和彦は、意地の悪い気持ちと、挑発、それに――わずかな期待を込めて、こう言っていた。 「帰る前に、〈後始末〉を手伝ってくれ」     
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