7921人が本棚に入れています
本棚に追加
/2987ページ
和彦は千尋の腕を取り、玄関まで引きずっていくと、ぽんっと押し出す。芝居がかったように肩を落とした千尋がやっと靴を履き、和彦はひらひらと手を振ってやる。
「気をつけて帰れよ」
「……本当に嬉しそうだよね、先生」
そんな一言を残して千尋が玄関を出ていき、ドアが閉まるのを見届けた和彦は、ほっと熱を帯びた吐息を洩らしてから、慌てて鍵をかける。そのままドアが寄りかかり、自分の体を抱き締めるようにして身震いしていた。
まだ、下肢を千尋の手にまさぐられているようで、妖しい感覚が這い上がってくる。
ふと感じるものがあって振り返ると、三田村が廊下に立ってこちらを見ていた。和彦はちらりと笑いかけると、側に歩み寄る。
「今夜はもう、帰ってもらっていい。プリンが食べたいなら、お裾分けするが」
「――大丈夫か、先生」
こちらの言葉など無視しての三田村の発言に、思わず睨みつけてしまう。やはり、脱衣所で和彦と千尋が何をしていたか、聞こえていたのだ。
相変わらずの三田村の無表情を眺めて和彦は、意地の悪い気持ちと、挑発、それに――わずかな期待を込めて、こう言っていた。
「帰る前に、〈後始末〉を手伝ってくれ」
最初のコメントを投稿しよう!