第4話(1)

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 三田村は表情を変えなかったが、即答もしなかった。和彦の真意を探るようにまっすぐな眼差しを向けてきて、知らず知らずのうちに和彦の頬は熱くなってくる。居たたまれなくなって、冗談だ、と言おうとしたが、三田村のほうが早かった。 「それが先生の望みなら」  和彦は目を丸くして、三田村を見つめる。すると三田村が、こんなときに限ってふっと笑みを浮かべた。 「なんで、言い出した本人が驚いた顔をするんだ」  試すつもりが、試された。そう感じた和彦は、三田村の横を通り過ぎて寝室に入ると、乱暴にドアを閉める。  大きく息を吐き出してドアにもたれかかると、控えめにノックされた。 「先生、大丈夫か?」 「……大丈夫、じゃない……。バカ千尋、人の熱を煽るだけ煽って、帰りやがった」 「俺が見ていた限り、追い返したのは先生だった気がしたが……」  うるさい、と口中で応じた和彦は唇を噛むと、わずかにためらってから、結局、バスローブの合わせ目に手を差し込んでいた。  熱くなったままの自分の欲望を、自らの手で慰める。 「は、あぁ――」  緩やかに手を動かしながら思い出すのは、巧みに和彦のものを扱き上げてくる賢吾の愛撫か、自分本位ながら、それがひどく和彦の感覚に合っている千尋の愛撫か、それとも、和彦の望むままに施された三田村の愛撫か――。  自分でもうろたえるほどの強烈な羞恥に襲われ、和彦は慌てて手を引き、半ば逃げるようにベッドに潜り込む。 「先生?」     
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