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「眠くてたまらないだろうが、起きてくれ。先生を、総和会の迎えがいる場所まで連れて行かないといけない」
「……ついてきてくれないのか」
「先生のことは、総和会の人間が面倒を見てくれる。組同士のトラブルに発展させないためには、これが一番いい」
そんなことはわかっている。ただ、言ってみただけだ。
仕方なく体を起こした和彦はベッドから出ようとして、もう一つ三田村に尋ねた。
「三田村さん、あんたずっと、ここにいたのか?」
先に寝室を出ようとした三田村が足を止め、肩越しに振り返る。その顔には、当然のように表情はない。
「いや……。さすがに俺も帰って寝ようとしていた。連絡があったから、ここに引き返してきたんだ」
「……仕事とはいえ、ご苦労なことだな」
そう答えた和彦は、やっと床に下り立った。
途中で三田村と別れ、総和会の迎えの車に乗り換えた和彦が連れて行かれたのは、繁華街近くにある高級マンションだった。
さすがにこの時間ともなると、車の通りは乏しく、人の往来となると皆無に近い。車を降りた男たちの会話も、必然的に小声で交わされる。
「ここに、先生に診てもらいたい患者がいます。昭政組の組長である難波さんの、大事な知人です」
総和会に絡む仕事のとき、和彦が乗る車の運転を毎回担当している中嶋の言葉に頷く。
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