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案内された部屋のリビングには、数人の男たちが待機していた。座っている男は一人だけで、全体に丸みを帯びた体を、寛いだ服で包んでいる。剣呑とした眼差しと、威嚇するような鋭い殺気を隠そうともしておらず、典型的な、和彦の嫌いなヤクザだ。
総和会の仕事を請け負うとき、出向いた先にいる人間の態度は、大抵は落ち着いた物腰で、表面的なものであったとしても和彦に対して紳士的に振る舞う。和彦の身柄を預かっている長嶺組の力のおかげだと思っていたが、どうやらこの場所は、事情が少々違うらしい。
座っている男は胡乱げに和彦を眺めてから、中嶋に尋ねた。
「こいつが、例の医者か?」
「長嶺組がお世話をしている佐伯先生です。総和会でも、すでに何度か仕事をお願いしています」
「……若いな。大丈夫なのか」
「美容外科医を呼べ、という依頼を受けてお連れしたのですが、何かご不満がおありですか」
中嶋の口調は丁寧だが冷ややかで、そこにわずかな皮肉が込められている。物腰がどこか三田村に似ていると感じていたが、この瞬間、ちらりと中嶋の地金が出たようだった。覇気と強気、少しばかりの傲慢さ。それを持つことが許されるのは、総和会に身を置いているが故なのかもしれない。
苦虫を噛み潰したような男の反応を気にもせず、中嶋は和彦に向き直った。
「佐伯先生、こちらが昭政組組長の難波さんです」
和彦が軽く会釈すると、難波は隣の部屋を指さした。
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