第5話(2)

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「だから、いいんだよ。普通の空気を味わってる感じがして。俺、高校まで、実家の仕事のせいで友達いなくてさ。なんか、独特の閉鎖的な空間だろ、学校って。俺なんて、毛色違いすぎて、浮きまくり。だけど、日曜日に街をぶらぶらすると、いろんな人間が行き来して、あっという間に溶け込める。俺は、どこにでもいるガキになれるわけ」  和彦はテーブルに頬杖をつき、ガキのような顔でチョコレートラテの生クリームを味わっている千尋を眺める。千尋はきっと、二十歳だった頃の和彦よりも、いろんなことを考えて、経験している。それでいて、強烈なガキっぽさを留めているのは、それが自分の武器になると、千尋自身、わかっているのかもしれない。 「知れば知るほど、お前の普段の犬っころのような落ち着きのなさが信じられない。そういう重い経験をしていたら、二十歳にしたって、もう少し大人っぽくなるもんじゃないのか……。ガキみたいだと思って油断していると、お前のオヤジと一緒に、とんでもなくぶっ飛んだことをしでかすがな」  ふいに千尋が真顔となり、強い輝きを放つを目で、じっと和彦を見つめてくる。 「――俺が犬みたいにじゃれつくのは、先生だけだ。できることなら、本当に先生の足にまとわりついて歩きたい。それで、こらっ、と先生に言われながら、でも甘やかすように頭を撫で回されるんだ」 「お前は……、まじめな顔で何を言い出すかと思えば……」  はあっ、と呆れてため息をついた和彦は、自分が頼んだカプチーノを一口飲む。     
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