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「ああ、済んだ。スタッフ募集の広告を頼むことにしたから、来週、またちょっと顔を出すことになると思う」
歩きながら和彦が説明すると、三田村は微妙な顔となる。
「三田村?」
「普通の人間を雇うと、おおっぴらに先生について歩けなくなるな。若い美容外科医が護衛をつけるなんて、何も知らない人間に対して、只事じゃないと知らせるようなものだ」
三田村の口調はあくまで淡々としているが、つい和彦は、言葉の裏にある三田村の気持ちを深読みしてしまう。正確には、期待していた。
状況が許せば、三田村は自分の護衛を続けたいと思ってくれているのか、と。
「……クリニックを開業しても、どうせぼくは、あのビルからほとんど外に出ることはない。今ほど護衛は必要じゃなくなる」
「だったら俺は、用なしだな」
「送り迎えは必要だ。それとも若頭補佐は、単なる運転手なんて仕事はしないか?」
三田村は表情を変えないままじっと和彦を見つめてから、わずかに肩をすくめた。この男には珍しい、どこかおどけたような仕種だ。
「先生は意地が悪い」
「お宅の組長には負ける」
「……返事に困るようなことを言わないでくれ」
気持ちが解れるような会話を交わしながらビルを出て、来客用の駐車場へと向かう。
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