第7話(3)

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 医者として患者の命を預かるという意味での緊張感はもちろんだが、和彦の場合、美容外科専門医として何年も過ごしてきているため、自分の手に負える患者であるのだろうかと身構えてしまう。  指導医も先輩もいない中、長嶺組に飼われる医者としての和彦は、常に孤独で心細いのだ。 「至急ということは、ひどい状態なのか? 今の脈拍と呼吸が知りたい」  話しながら和彦は書斎を出ると、着替えを準備する。腹を刺されて大量に出血していると聞かされ、思わず顔をしかめていた。 「手術の準備を整えておいてくれ。それと、血液も。型はわかっているんだな?」 『大丈夫です』 「ぼくが行くまで、絶対に目を離さないように。異変があれば、すぐに連絡してくれ――と、今は携帯電話がないんだ」 『今迎えに向かっている者の携帯に連絡します。それまでは、この電話で』  わかった、と応じてから、一旦電話を切る。  平日の午前中とは思えないほど、のんびりと過ごしていた和彦だが、このときから状況は一変する。  慌ただしく出かける準備を整えると、クロゼットから、中身の詰まったバッグを取り出す。出かけた先で手術を手がけるようになって、要領もわかってきた。ある程度必要なものは、自分で持ち込むということだ。     
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