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シャワーは後回しにして、さっそく新しい携帯電話から、中嶋の携帯電話に連絡する。
『先生ですか?』
コール音が途切れると同時に、急き込むように問われて面食らう。一瞬和彦は、電話をかけた先を間違えたのだろうかと思ったぐらいだ。
「あっ、ああ……」
『よかった。先生の携帯が繋がらないかもしれないと聞いていたんで、自宅のほうにかけさせてもらったんです。携帯の番号、変えたんですね』
「いろいろ事情があって。バタバタしていたから、君に知らせるのが遅くなったんだ。そのせいで手間をかけさせたみたいだな」
『いえ。こっちの事情で電話をかけておいて、手間なんて……』
やはり、中嶋の様子がおかしい。和彦は率直に尋ねた。
「中嶋くん、どうかしたのか? なんだか声の調子がいつもと違う――」
『先生っ、頼みがありますっ』
どうやら中嶋は切迫した状況にいるらしい。
「……ぼくで相談に乗れることなら……」
『先生が、長嶺組や総和会にとって大事な医者なのはよくわかっています。だけど俺には、先生しか心当たりがないんです。――診てほしい人間がいます』
和彦は眉をひそめ、慎重に言葉を選びながら答える。
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