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中嶋から怪我の詳細と、どこに行けばいいのかを聞いた和彦は、電話を切るとすぐに出かける準備を始める。
今日はもう、組員が部屋を訪ねてくることはなく、携帯電話での定時連絡があるだけだ。電話に出て二、三言話せば済むので、部屋の電気さえつけておけば、和彦が出かけていることがバレる可能性は低い。――何事もなければ。
エレベーターでエントランスに降りながら、和彦の心臓はドクドクと大きく鳴っていた。近所への買い物程度なら、組員と鉢合わせしても平気だが、さすがに大きなバッグを持った状態では、なんの言い訳もできない。最悪、逃げ出そうとしていると取られるかもしれない。
慎重にエントランスをうかがうが、人の姿はなかった。早足で外に出て辺りをうかがうと、すぐにタクシーを停めて乗り込む。向かう先は、中嶋のマンションだった。
中嶋のマンションは繁華街のすぐ近くにあった。人と車が行き交う雑多な通りで、夜とはいってもにぎやかだ。
治安に少々不安を覚えそうな場所だが、中嶋のような仕事や、水商売をしている人間にとっては、これぐらいのほうが周囲に気をつかわなくていいのかもしれない。
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