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渋滞に巻き込まれながら、なんとかタクシーをマンションの前で停めてもらうと、和彦は素早く周囲を見回してから降りる。皮肉なもので、渋滞のおかげで背後の車の特定が簡単だったため、尾行がついていないと確認するのは容易だった。
エントランスの前で、到着したと中嶋に連絡を入れ、オートロックを解除してもらう。
部屋があるというフロアまで上がると、中嶋がドアを開けて待っていた。和彦を見るなり、心底ほっとしたような表情を浮かべ、軽く片手を上げた。
「……本当に来てくれたんですね」
和彦が歩み寄ると、そんな言葉をかけられる。
「あれだけ頼まれたからな。だけど、先にこれだけは言っておく。――少しでも面倒事になりそうだと判断したら、組に報告する。その後の君の立場まではこちらも責任は持てない」
頷いた中嶋に促され、和彦は部屋に入る。
「君こそ、いいのか? 総和会に知られたらマズイんじゃないのか」
「それで怖気づくぐらいなら、先生に治療を頼んだりしませんよ。俺としては、先生にこうして来てもらうのは、大きな賭けなんです。……あの人は、先生は絶対他言しないと言い切ってましたけど」
「あの人……?」
和彦が住んでいるマンションほどではないが、それでも一人暮らしにしては十分すぎるほど広いリビングを通って、奥の部屋へと案内される。中を覗いた和彦は、大きく目を見開いた。
ワイシャツを引き裂かれたボロボロの姿でベッドに横たわっているのは、秦だった。
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