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和彦が帰ろうとすると、中嶋が驚いたような声を上げる。かまわず行こうとしたが、素早く中嶋が前に回り込んできた。和彦の異変に気づいたらしく、中嶋まで強張った顔をしている。
「どうかしたんですか?」
必死の顔で問いかけられ、和彦はわずかに視線を伏せる。
「……悪いが、彼は診てやれない。組に隠れて医療行為を行うのは、やっぱりやめておきたい。あとあと面倒になる」
「でも、ここまで来てくれたじゃないですかっ」
「気が変わった」
中嶋を避けていこうとしたが、すかさず両腕を広げて阻まれる。さすがに和彦も鋭い視線を向けた。
「そんなに医者に診てもらいたいなら、救急車を呼べばいい。病院から怪我についてあれこれ詮索されても、彼は組関係者じゃないんだ。警察に連絡されても、なんとでも切り抜けられるだろう」
「組関係者じゃなくても、組と繋がりはあります。そこを突っ込まれると、秦さんの立場が危うくなりかねないんです」
「それは、ぼくが心配することじゃない」
和彦が言い切ると、中嶋が唇を引き結び、初めて見せる厳しい表情となる。恫喝されるのだろうかと身構えそうになったが、次の瞬間、中嶋は意外な行動に出た。
床に額を擦りつけるようにして、土下座をしたのだ。
「中嶋くんっ……」
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