第9話(3)

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「……なんか、引っかかる言い方だな。性質の悪い女だと言われているみたいだ」 「女じゃなく、〈オンナ〉でしょう。怖い男たちに大事に大事にされている、特別なオンナですよ」 「おい――」  和彦が声を荒らげようとしたとき、さらりと秦が言葉を付け加えた。 「もちろん、わたしにとっても」  こんな場で怒鳴りつけるわけにもいかず、さらに毒気も抜かれたような状態になり、和彦は肩を落としてイスに座り直す。秦は声を洩らして笑ったが、すぐに、微かに眉をひそめて、胸元に手をやろうとした。秦のその仕種で、和彦はあることを思い出した。 「そういえば、肋骨を折っていたんだな。客の前で平然としているから、すっかり忘れていた」 「さすがに、お客さまの前で醜態を見せるわけにはいきませんから。先生は特別ですよ。事情を知っているから、つい気が緩む」  肋骨を折ってはいても、秦の口は滑らかだ。どうやって反撃してやろうかと考えながら和彦は、ぐいっとオレンジジュースを飲み干す。そんな和彦を、秦はおもしろそうに見下ろしていた。 「お代わりをお持ちしましょうか?」 「いい。あとで自分で取ってくる」  和彦の返事に、ああ、と納得したように秦は声を洩らす。 「また、薬を盛られることを警戒しているんですね」     
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