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「さすがにこんな場で、不埒なことをするとは思いたくないが……念のためだ」
ここで二人組の女性客が秦に話しかける。このまま和彦の側から離れるかと思ったが、秦は愛想よく会話に応じはしたものの、ウェイターを呼んで、女性客を料理の置かれたテーブルへと案内させた。そして、和彦に向き直る。
「――招待はしたものの、先生に来ていただけると、確信はしていなかったんですよ」
秦はさりげなく和彦の手から、空になったグラスを取り上げた。
「ぼくも、正直行くつもりはなかった。ただ、行くよう言われたんだ」
「組長から?」
「あの男は、ぼくの飼い主だからな。命令されれば、逆らえない」
「来られるなら、どなたかとご一緒かと思っていたんですが――」
「……その口ぶりだと、ぼくを利用して、長嶺組長と関わりを持とうとした目論見は、今のところうまくいってないみたいだな」
このことについても、当然和彦は、賢吾に話してある。それでも賢吾は、秦に対してなんらかの行動を起こした様子もなく、果たして考えがあるのか、単に秦の存在が目に入っていないのか、限りなく堅気に近い和彦に推し量ることはできない。
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