第9話(3)

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「いつ、マンションのドアを蹴破って、長嶺組の方たちが雪崩れ込んでくるか、待っているのですけどね。今のところ、それはないですよ。だからこうして肋骨が折れた体で、派手なパーティーも開ける」 「調子に乗っていると、痛い目を見るぞ」  和彦の忠告に対する返事のつもりか、秦は様になる仕種で肩をすくめると、次の客の相手に向かった。  秦に、壁の華呼ばわりされて癪なので、立ち上がった和彦は壁際から離れる。ソフトドリンクばかりを飲んでいても仕方ないため、せっかくなので料理を堪能しておくことにした。  何事もなくパーティーは終わりに近づき、和彦は一足先に帰るつもりでホールをそっと抜け出す。一声かけておこうと、受付を兼ねたレジカウンターに歩み寄ろうとしたとき、背後から柔らかな声で呼びとめられた。 「――先生」  振り返ると、秦が大股で歩み寄ってくるところだ。逃げ出したいところだが、パーティーに招かれてそんな無作法もできず、足を止める。 「楽しんでいただけましたか?」 「ああ。酒が飲めなかったのは残念だが、料理は美味しかった」  よかった、と洩らした秦が、一枚の名刺を差し出してくる。 「この店で、二次会をしています。こちらだと、いくらでも酒が楽しめますよ。なんといっても、クラブですから。今日は店の定休日でホストたちも出勤していないので、本当に、ただ飲んで、ゆっくりしてください」     
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