第9話(3)

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「……二次会はけっこうだ。酒を飲むなら、部屋に帰って一人で飲む」  露骨に警戒する和彦を見て、秦は意味ありげな笑みを唇の端に刻む。その表情が気になって、和彦は名刺を押し戻そうとしたが、反対に手を取られて押し付けられてしまった。 「おい――」 「ある人が、先生をお待ちですよ」 「ある人?」 「さきほど、店に電話がかかってきたんです。それでわたしが二次会の店をお教えして、先に寛いでいただいているというわけです」  誰が待っているのか、秦は教えてくれなかった。  二次会まで行く気はなかった和彦だが、待機している長嶺組の車に乗り込むと、こちらが何か言う前に、速やかに次の店へと向かい始める。名刺を見せるまでもなかった。  つまり、〈誰か〉がすでに護衛の人間に用件を伝えて、指示を与えているということになる。それが誰であるか、考えるまでもない。  パーティーの席で一滴も飲まなかった和彦だが、この時点で、酔いにも似た感覚に襲われる。  そしてその感覚は、地下一階のクラブへと繋がる細長い階段を下りていくうちに、ますます強くなる。  貸切という札がかかっている扉を開けると、夜のにぎわいを見せる地上のまばゆさとは対照的な、抑えめな照明の明かりとボーイに出迎えられた。     
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