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「仕事が早く片付いてな。それで、先生の浮気相手の顔を拝んでやろうと思ったんだ」
浮気相手という表現に、つい賢吾を怒鳴りつけそうになったが、店内に音楽が流れているとはいえ大声を出して目立ちたくない。そこで和彦は、靴の先で賢吾の足を軽く突いた。
「……ぼくがパーティーのことを話したときから、こうするつもりだったんだろ」
賢吾はニヤリと笑って話を続ける。
「乗り込んでいいか、レストランに電話して確認しようとしたら、ここで二次会をやると秦に教えられた。そこで、先生の先回りをしたというわけだ」
「……一杯飲んで、満足したか? ここは普通の客ばかりなんだ。あんたみたいな物騒な男がいたら、こっちがハラハラする」
「おとなしくしてるぜ? 俺は、紳士的な男だ。酒を出す場で暴れたりしない」
何か飲めと賢吾に言われ、和彦はハイボールを頼む。ちなみに賢吾が飲んでいるものは、ギブソンだ。この男に甘口のカクテルは似合わないので、納得できるオーダーだ。
物騒な男が隣にいて安心して飲めるというのも妙な話だが、和彦はこの夜初めて、やっとアルコールを味わうことができる。冷えたソーダの刺激が舌の上で弾け、美味しかった。
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