第9話(3)

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 いつものことだが、賢吾と二人で飲むとき、特に何かを話すわけではない。じっくりとアルコールを味わい、その場の雰囲気を楽しむのだ。  いつものように賢吾とそうやって飲んでいると、次々に客がやってきて、店内はあっという間ににぎやかになる。ただ、盛り上げ役のホストたちがいないせいか、眉をひそめるほどの騒々しさはない。 「――お楽しみですか」  賢吾の傍らに立ち、声をかけてきた人物がいる。秦だ。賢吾は悠然と顔を上げると、カクテルグラスを軽く掲げた。 「ああ。ここがホストクラブじゃなかったら、通ってもいいぐらいだ。俺は、男に接客される趣味はないからな」  賢吾の言葉に、さすがの色男もどういう顔をしていいかわからなかったらしい。いくぶん困惑したようにちらりと和彦を見た。もっとも和彦のほうも、賢吾の言葉の真意はわからない。この男なりの性質の悪い冗談なのか、案外、本音なのか。 「気分がいいから、今夜は難しい話はなしだ。――色男、ガツガツするなよ。そういう姿は人に見せるもんじゃねーし、俺も、見たくねーからな」  上機嫌ともいえる声音で賢吾がそんなことを言ったが、和彦には、大蛇がわずかに鎌首をもたげた姿が脳裏に浮かんだ。威嚇ではない。ただ、相手を値踏みしているのだ。     
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