第9話(3)

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 賢吾の刺青について知らないはずの秦は、違う光景を頭に描いたのか、顔を強張らせている。いくつもの組と関わり、ヤクザとつき合いのある秦でも、賢吾が相手だと気圧されるらしい。  秦が口を開きかけたそのとき、受付にいたボーイが慌ただしく秦に駆け寄り、何かを耳打ちした。眉をひそめた秦が、賢吾だけでなく、和彦にも視線を向けてくる。思わず和彦は問いかけた。 「どうかしたのか?」 「いえ……、今夜は貸切だと説明しても、入れてくれとおっしゃるお客様が見えられているのですが、佐伯先生のお知り合いだと――……」  ピンとくるものがあり、まさかと思いながら賢吾を見る。賢吾は、今にも人を食らいそうな、剣呑とした笑みを浮かべた。 「いいじゃねーか。俺の顔を立てて、入れてやってくれ」  賢吾の言葉を受け、秦はすぐにボーイに指示を出す。  案の定、姿を見せたのは、鷹津だった。相変わらずのオールバックに無精ひげだが、今夜はスーツを着ていた。  肩越しに振り返りながら鷹津を確認した賢吾は、短く声を洩らして笑う。 「千客万来ってやつか?」 「……あんたが言える台詞じゃないだろ」  呟きで応じた和彦は、こちらに向かって歩いてくる鷹津を見据える。先日、鷹津から与えられた屈辱は、和彦の胸の奥で傷となってジクジクと痛んでいた。     
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