第9話(3)

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 一方、事情がわからない様子の秦だったが、先日、自分が腹を殴った男が現れたことで、いくらか緊張した表情を見せる。鷹津のほうは、秦を一瞥したものの、声をかけることすらしなかった。賢吾しか目に入っていないようだ。  秦は、立ち入ったことを尋ねてこようとはせず、別室に移動しないかと申し出て、尊大な態度で賢吾が頷いた。 「――そんなに俺の〈オンナ〉が気になるか、鷹津」  重苦しい沈黙を破ったのは、賢吾の挑発的な言葉だった。新たに運ばれてきた水割りを飲んでいた和彦は驚いて、乱暴にグラスをテーブルに置く。正面のソファに腰掛けた鷹津のほうは、ウーロン茶に入った氷をカランと鳴らし、嫌悪感も露わに顔をしかめた。  ただ一人、悠然とした態度を崩さない賢吾は、鷹津の反応に満足そうに喉を鳴らして笑ってから、ウイスキーミストの氷の粒をガリッと噛み砕いた。 「先生のあとをつけ回しては、脅かしているんだってな。可哀想に、先生がすっかり怯えちまっている。今夜だって、尾行していたんだろ。さすがに現役刑事だけあって、他人のケツを追いかけ回すのは得意ってことか」 「……なんとでも言え。こっちも言わせてもらうが、お前のオンナがそんな繊細なタマか。男のくせに、ヤクザの組長を咥え込んでいるってだけでも大したものなのに、その飼い犬とも寝ている」 「それだけじゃない。俺の息子のオンナでもあるんだぜ、この先生は」     
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