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「奢ってやるから、一杯飲んで帰ったらどうだ。ヤクザに奢られるのは、得意だっただろ。それに――興奮して、喉が渇いただろうしな」
鷹津は、今にも飛びかかりそうな顔で賢吾を睨みつけ、そのまま黙って部屋を出ていった。乱暴に閉められたドアの音に肩を揺らした和彦の耳に、ぽつりと洩らされた賢吾の呟きが届く。
「なんだ、逮捕はなしか……」
和彦はソファに横になったまま、あれだけ激しく自分を貪ってきたあとなのに、それでも精力的で精悍で、何より楽しげな男を半ば畏怖しながら眺める。思わず、こう問いかけていた。
「――……あんた、あの男を刺激して、どうしたいんだ?」
和彦にハンカチを差し出してきながら、賢吾は目を細める。機嫌がよさそうにも見えるが、一方で、大蛇を身の内に潜ませた男らしく、ひどく残酷にも見える表情だ。
「何も。ただ、ウロウロされると目障りだから、嫌がらせをしただけだ」
「あんたに潰されても、しぶとく警察の世界で生きている男が、あんなチャチな嫌がらせで動じると、本気で思っているのか?」
「先生は本当に、ヤクザの組長のオンナらしくなったな。今の冷めた口調なんて、惚れ惚れしそうだ」
顔をしかめた和彦は、半ば意地になって体を起こす。賢吾は低く笑い声を洩らしながら、傲慢な手つきで和彦を引き寄せ、唇を塞いできた。
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