8132人が本棚に入れています
本棚に追加
それこそ、若頭補佐の肩書きを持つほどの男がやるべき仕事ではないと思うが、和彦が絡むと、三田村の感覚は少々は狂うらしい。
「若頭補佐に使い走りなんてさせたら申し訳ないから、こうしてぼくがついてきたんだ。そうすれば、ぼくの護衛という仕事もこなせるからな」
「なるほど」
生まじめな口調で応じた三田村だが、バックミラーを覗き込むと、口元には笑みが浮かんでいた。
受け取ったときに一通り目を通した書類を、もう一度確認してから封筒に仕舞う。それを傍らに置いた和彦は、ウインドーの向こうに目を向ける。
ちょうど海岸線を走っているため、海沿いの景色を堪能できる。秋らしくなったとはいえ、まだ強い陽射しが海面に反射し、キラキラと輝いていた。
「……天気がよかったからなんだ」
ぽつりと洩らした和彦は、いつ見てもハッとさせられる鮮やかな青空へと目を向ける。
「朝、カーテンを開けたときから、外に出て、たっぷり陽射しを浴びたかった。だから、書類を受け取りに行くというのは、いい口実になった」
「できることなら一人で運転して、ドライブを楽しみたかった――、という口ぶりだ」
「そろそろ運転の仕方を忘れそうなんだ」
運転はダメだと言いたげに、三田村に小さく首を横に振られてしまった。和彦は軽くため息を洩らす。
「まあ、いい。もう一つの希望は叶えられたし」
最初のコメントを投稿しよう!