8132人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ?」
「――忙しい若頭補佐と、平日の昼間からドライブを楽しむ」
三田村から返事はなかった。和彦は、ぐっと好奇心を抑え、三田村がどんな顔をしたのか、バックミラーを覗き込むような、はしたない行為はやめておく。
途中、自販機で缶コーヒーを買っていると、傍らに立った三田村に言われた。
「もう少し走ったところに、砂浜に下りられる場所があったはずだ。周りに店もないようなところだが、そこでいいなら、休憩していこう」
和彦は目を丸くして、無表情の三田村の顔を凝視する。
「……急いで帰らなくていいのか?」
「コーヒー一本飲む余裕ぐらいある」
当然、和彦の返事は決まっていた。
三田村が言っていたのは、きれいな人工砂浜のことだった。行きしなに見かけたときは数台の車が停まっていたが、今は一台だけだ。季節外れの海は、こんなものだろう。
缶コーヒーを持ったまま砂浜に下りてみると、離れた場所に、波打ち際ギリギリのところに並んで腰掛けている男女の姿があるが、他に人気はない。
靴に砂が入るため歩き回ることもできず、すぐに階段に引き返す。積み上げられたテトラポッドの陰に入り、強い陽射しを避けながら、思う存分海を眺めることができる。
最初のコメントを投稿しよう!