第3話(1)

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第3話(1)

 引っ越し先の部屋の居心地は、いいとはいえなかった。まだ慣れていないというのもあるが、目につく家具の一つ一つが自分が選んだものではないというのが、最大の原因だろう。  大きな窓につけられたカーテンも、足元で心地いい感触を与えてくれるカーペットも、腰掛けているソファも、文句なしに品はいいが、少なくとも和彦の趣味ではない。まるで高級ホテルのスイートルームにでもいるようだ。  高層マンションの広くてきれいな角部屋を与えてくれたことだけは、唯一評価してもいいのだろうが――。  所有したものには、徹底して自分の好みを押し付けるのがこの男のやり方なのだろうかと、和彦は正面のソファに腰掛けた賢吾に視線を向ける。  露骨に警戒している和彦の反応がおもしろいのか、長嶺組組長という肩書きを持つ男は、悠然と足を組んだ姿勢で寛ぎながら、じっとこちらを見つめていた。     
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