第3話(3)

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第3話(3)

「……本当は、今の生活を刺激的だと思い始めている自分が嫌だ。怖くて汚い世界だとわかっているのに。毎日何度も、そんな自分を嫌悪して落ち込む」 「悪かった……。先生が何もかもが平気なわけじゃないと、気づくべきだった。そうしたら、もっと気遣ってやれたかもしれない」  和彦がちらりと笑みをこぼすと、まるで見ていたようなタイミングで体の向きを変えられ、二人は向き合う。 「あの組長が、きめ細かい気配りなんてできるとは思えないけどな」 「だが、先生のことは考えている。だからこそ組長は、あんなものを用意した。堕ち始めた人間の拠り所は、力だ。先生はヤクザの力なんて嫌がるだろうが、この世界に足を踏み入れたら、長嶺組の力が一番確実に先生を守ってくれる。だから、嫌がるのを承知で、これみよがしにあんなことをした。先生に、現実を見せるために。嫌でももう、目を背けることは許されない」 「――堕ち始めた、か」  自嘲気味に和彦が洩らすと、初めて三田村が狼狽した素振りを見せ、肩に手をかけてきた。 「あっ、いや……、堕ちるというのは、俺たちのような人間のことで、別に先生がそうだというわけじゃ――」     
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