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第6話(1)
久しぶりに友人と会えて嬉しいのに、どうしても無視できない感覚が和彦の胸には広がっていた。
「――それで、ダンナがクリニックに怒鳴り込んできて、大騒ぎになったんだ」
「それを澤村先生は、ニヤニヤしながら眺めてたんだな」
「そりゃもう、楽しかったからな。いつも威張り散らしてる奴が、受付の子の後ろに隠れて、真っ青になって震えてるんだぜ」
「……相変わらず、イイ男に対しては鬼だな」
同僚の医者が、不倫相手の夫からいかに無様に吊るし上げを食らったかを、澤村は実に嬉しそうに話す。
目立ちたがり屋同士、何かと張り合っていたなと、かつて自分がクリニックに勤めていた頃の出来事を思い出し、和彦はふっと笑みをこぼす。それと同時に、また、ある感覚に襲われた。
「どうした、佐伯、急にぼんやりして」
澤村に声をかけられ、我に返る。なんでもないと首を横に振り、フォークを手にした。
澤村とは、ときどき電話で話してはいたものの、こうして会うのは久しぶりだ。厄介事のほとぼりが冷めるまで会わないつもりだったが、皮肉なことに、その厄介事は和彦の体の一部になってしまった。
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