第7話(2)

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第7話(2)

 コンサルタントのオフィスを出てロビーに降りると、オフィスビルらしく、スーツや制服姿の人間が行き交っている。和彦は辺りを見渡し、ある男の姿を苦もなく見つけ出した。  本人は、自分の存在感を限りなく消しているつもりなのだろう。地味な色のスーツを端然と着こなし、イスに腰掛けてやや前屈みの姿勢で新聞を開いている。強面ではあるのだが、世のビジネスマンには、そんな人間は数え切れないほどいる。  本来であれば目立つはずもないのだが、やはり三田村は、周囲から浮いていた。 「――こんな場所で、そんなに警戒しなくても大丈夫だろ」  静かに歩み寄った和彦が声をかけると、驚いた素振りも見せず三田村は新聞を畳む。 「先生が鷹津に絡まれたのは、どこだった?」 「……プロに、余計なことを言って悪かった」  和彦が素直に謝ると、三田村は顔に貼りついたような無表情の下から、微かな笑みを覗かせてくれた。もっとも、ほんの一瞬だ。すぐに鋭い視線を、油断なく周囲に向けた。  ここのところ、和彦の護衛は別の組員が務めることが多く、だからといって不満はなかったのだが、やはり三田村のこんな姿を見ると安心する。 「打ち合わせは?」     
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