第7話(3)

1/20
7830人が本棚に入れています
本棚に追加
/2987ページ

第7話(3)

 電卓を叩いた和彦は、表示された数字を見て、一声低く唸る。  クリニックに入れる医療機器・備品は決めたのだが、医療機器に関しては、どの専門商社と取引するかという点で、頭を悩ませていた。いままで医療機器の価格など、聞いたところで他人事だったのだが、いざ自分が導入するとなると、やはり臆してしまう。例え、ヤクザの金を使うにしても。  やはり商社間の入札で、今後のメンテナンスまで含めた価格を決めてしまうほうが、結果として安くつくかもしれない。  コンサルタントに勧められながら、大まかな金額を計算してはためらっていた和彦だが、とうとう覚悟を決める。  入札の話を進めてもらうよう連絡するため、子機に手を伸ばそうとしたとき、突然、電話が鳴った。驚くと同時に、反射的に子機を取り上げる。 「もしもし――」  電話は、長嶺組の組員からだった。 『先生、至急、診てもらいたい人間がいます』  前置きなしの言葉に、和彦の全身にビリッと緊張感が駆け抜ける。今の境遇になってから、すでに組関係者を何人か診ているが、それでもこの感覚は消えない。     
/2987ページ

最初のコメントを投稿しよう!