プロローグ~終わりが始まる

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プロローグ~終わりが始まる

全てのものには終わりがある。 始まれば、何れ終わる。 演劇も、音楽も、仕事も、人生も、 そして 今生きる、この世界すらも。 終わりなきものなど 何処にも存在しない。 それが神の定めたこの世界のルール。 しかし神よ お前は知らないだろう。 終わりがもたらす始まりを。 何も無い場所に存在した終わりは、確かに今、この世界で形を得た。 お前は知らない。 終わり無き神すらも終わらせる そんな力が生まれた事を。 お前は知らない。 終わりが得た、新たな始まりを。 お前は知らない。 終わりは既に 1つではない事を。 「何れ分かる」 その時まで精精、高見の見物でもしているがいい。 気付いた時には手遅れだろうが。 この世界に終焉を。 美しき滅びを。 神の創った世界など、我等は求めない。 「神の傲慢が、世界を滅ぼすと知るがいい」 この世界は神のもの。 ならば一刻も早くそれを打ち壊し、歴史を人の手に委ねなければ。 過去の遺物は最早用済みだ。 新たな世界はーー新たな歴史は、人の手によってこそ紡がれるべきもの。 「さあ同志よ、今こそ始めようーー新たな再生、新生を」 その男が壇上で声高に叫ぶと、周囲からも同じ様に声が上がった。 「新たな再生を」 「新生を」 それは呪文の如く繰り返される。 熱に浮かされた様に声を上げる連中を離れた場所から睥睨していた別の男は呟いた。 「新たな再生、か」 良く言う。と口の端に笑みを刻む。 「人に御せる程度の“終わり”など、たかが知れている」 踵を返すと男は黒いローブを靡かせながら、狂信者たちの坩堝を後にする。 外に出ると夏の夜風が頬を撫でた。 生温いそれを受けながら男は呟く。 「今は良くても、何れ手痛い仕返しをされるだろうな。まあ、俺には関係のない事だが……さて」 独りごちると男はするりとその場を離れ、自身の部屋へと戻る。そして 「さて、ベネトロッサの魔術師よ。お前はどう終わらせる?」 破滅への序曲は流れ始めた。 さらなが指揮者の様に手を振ると、彼の傍にあった水晶球が光を放つ。 そして、そこに1人の魔術師が映し出された。 白金の髪に、夏の空を思わせる淡い青き瞳の女。 「見せて貰うとしよう」 彼女の姿を見詰めながら、男はひっそりと笑った。
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