第0.5話「ある導師の記憶」

6/6
2979人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
~~~~~~~~~~~~~~~~~ お日様みたいなお父様 いつも優しいお父様 ソラは幸せ だってお父様がいるんだもの お父様大好き ソラは幸せ お父様がが幸せで ニコニコしてられるよう ソラはいい子でいるんです お父様が笑ってくれるよう ソラはいい子でいるんです 大好きなお父様へ ソルシアナより ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 今でも覚えている。 あの時の事を。 あの陽だまりの様な記憶(できごと)を。 「アルカード……」 娘の事となると氷の仮面すら脱ぎ捨てる、偽氷(ぎひょう)のベネトロッサ。 「何か、見落としている」 あの子を唆したのは誰だ? 私の可愛い愛弟子を。 彼は頭の良い子だった。そして思慮深く、慢心せず、警戒心を怠らない優れた魔術師だった。 そんなあの子が、こんな暴挙に及ぶだろうか? 娘の為とはいえ、こんな愚かな事を。 「例えば、誰かが娘を利用したとしたら?」 最愛の娘。例えば彼女が得たという病。 それが仕組まれたものだったとしたら? カーマインベック程の医師が諦める程の病。 ただのウイルスや毒の類ではないだろう。 だとしたらーーそれは、何故引き起こされた? 「……可能性として考えられるのは」 ウイルスではない、毒でもない、ましてや魔術ですらない。それでも人を蝕み、どんな薬も受け付けないのだとしたら、それはーー 「“神の雫”(ネクタル……)」 導き出した答えに、私は苦く唇を噛んだ。 神の雫ーーネクタル。 それは神が無限の生命を紡ぐ為に創り出された秘薬。神々の為に作られたそれは、人の身には余りに強烈で、1滴でも摂取すれば確実にその生命を奪う事の出来る劇薬だ。 だが、神の雫は人間界には存在しない。 精製出来るのもごく限られた神のみで、人には創り出す事は出来ないとされている。 そのネクタルを真似て作られたのがポーションやエリクサーという錬成薬物なのだが…… 「錬成……か」 可能性としては薄いが皆無ではない。 調べる価値はありそうだ。 そこまで考え、私は深い溜息をついた。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!