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「え!?」
ネイトの言葉に息を呑む。すると兄は
「そうは言っていない。私は事実確認をしているだけだ」
「どうだか」
「ネイト」
ネイトが食って掛かる様にわざとらしく肩を竦めると窘める様に姉が口を挟んだ。
「エルにそこまでの人間的強度はない」
「は?人間的強度、ですか?」
「そう……」
「あの、お姉様、それはどう言う……」
ネイトと同じく突拍子もない姉の言葉に首を傾げる。姉は彼女独自の思考に基づき発言している為が、時折言葉選びが難解で、他人には良く分からない事がある。
正確に理解出来るのは歳の近い兄くらい。事実、姉の言葉を受けて兄は何か思う所があるのか、小さな溜息をついた。
「フィー」
「エル。言葉が分かり難いのが、貴方の悪い所」
「君に言われたくはない」
その言葉には賛同を示したい。と言うか、私には兄も姉もーーどちらの言葉も理解し難いものなのだが。私たちとは違う次元で会話しているとしか思えない。私たちの困惑を他所に姉は話す。
「……話しを戻す。お父様は昨夕、会議に出なかった。最後に会ったのはソルシアナ。それは……上級導師の来客予定リストから予測出来る」
「来客予定リスト?そんなの取次ぎの専任魔術師しか見れないんじゃないの?姉様、何処でそんな情報を?」
「エル」
姉が兄を呼ぶと、兄は神経質に眼鏡の弦に触れながら
「私が話した」
「!ど、どうして!?」
「簡単な事だ。私も、父に会っていたからな」
「兄様も?」
「そうだ」
兄は頷く。
「レイエンツェッヘンの過剰賠償請求仲裁任務についての経過報告を求められ、午前中に上級導師執務室に呼び出された。その時、ソルシアナの名前が一番最後に記されていたのを覚えている。父が……彼女を呼び出すのは珍しいからな」
一瞬しか目の当たりにはしていないが、私の後の予定は空白だったのを覚えている、と兄は付け足した。平日に昼までしか来客予定が無いことにも驚いたと。
「兄様の見間違いでは?」
口を尖らせるネイト。
だが、私は違うと断言出来る。
余人ならばいざ知らず、兄に関して言えば、それはない。
何しろ彼の記憶力は絶対なのだから。
何故か?ーー彼の持つ従霊の1人に、そうした能力を有するものがいるからだ。兄は職務上、忘却を許されない立場にある。それ故に“忘却無き”従霊に自己の記憶能力を連結し、そこに情報を保管しているのだ。
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