第1話「消えた父と四兄弟」

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私の所為で失いつつはあるけれど、でもそれでも、完全に断ち切られた訳ではない。 完全に嫌われた訳じゃない。 それが分かっているから。 まだ微かな希望が残されているから。 だから、私はそうするべきなのに自らこの苦しみを終わらせる事すら出来ない。 見苦しく、醜く泣き叫びながら、それでもまだしがみつこうとしている。 「あぁ……」 ああ、いっそ 全て壊れてしまえばいいのに 私も、私以外も、全て そうすれば 全部が同じ様に終われば こんな苦しみを味わわなくてもいいのに みんな同じなら 少しも怖くも……悲しくもないのに…… 「もう嫌……こんなの……」 何をしても駄目なら もう終わらせて。 「こんな事なら、初めからーー!!」 望むんじゃなかった。 得ようとするんじゃなかった。 身の丈に合わない努力なんてして、頑張るんじゃなかった。 全部、戻ればいいのに。 全部無くなって、最初に戻ればいいのに。 何も望まなかった、あの頃に。 知る事さえなければ悲しみなど抱かなかった。 絶望のままに死ねたのに。 どうして私は悲しむのか。 苦しむのか。 諦めきれないのか。 何処に向かうでもなく走り続けながら、私はふと思った。 どうして彼は 私なんかを望んだのだろうと 最初に望んだのは私だけれど、彼が優しくしなければきっとこんなに醜くく惨めな私に変わったりなどしなかったのに。 こんなにも強く絶望しながも、尚、死よりも生にしがみつく事などしなかったのに。 父もそう。 どうして私を呼びつけ、あんな酷い態度ばかり取ったのか。 昔はあんなに優しかったのに。 愛されていると、思ってた。 父にもーー彼にも。 でも私を愛した人たちは、皆私を嫌いになる。 それはきっと、私がそうさせているのだろうけれど、私にはその理由が分からない。 いつもそう。 私には分からない所で、全部決まってしまう。 泣きながら走った所為か、私の体力は直ぐに失われ、気付くとフラフラとした足取りである場所を訪れていた。 「……ここ、は……」 涙を拭う事すら出来ずに、私はその場に崩れ落ちた。 もう疲れた…… 走るのも、考えるのも。 ぼんやりと白む思考もそのままに、私は抗う事もせず、意識の墜落するままに任せてその場に身を丸めた。
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