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「仕方がないだろう……っ、他に、どうしろと?」
軽く咳き込みながらも問うとフィーは眉一つ動かさず、人形の様に整った顔のまま呟く。
「ネイトまで虐めて……最低」
「人の事が言えた義理か?お前だって共犯だろう」
事実を言うと妹はまた無言で拳を振り上げる。
「待て、落ち着け、フィー」
内心動揺し慌てて止める。
フィーは見た目の割に昔から手が早い。
両親や下の妹弟たちにはそんな事はしないのだが、何故か私にだけは幼い頃から“即座に”暴力で訴える。しかも、必ず誰の目にも触れない場所で。
無論回避する事も可能なのだが、下手に頭が良いだけに、その行動は変幻自在で武芸を習った私ですら見ての通り虚をつかれる事もしばしば……しかも、うっかり回避などしてしまうと、その後更に手酷い報復があるので、この場合、最初の一撃を大人しく食らっておくのが定石となっている。
とりあえず一撃入れた事でそれなりに溜飲を下げたらしい妹はこくんと小さく首を傾げると
「まあエルも傷付いてたみたいだから……今ので許してあげる」
「……」
フィーの言葉に思わず苦い顔をした。
まあ他人には分からないだろうが……この妹には昔から私の表情が分かるらしい。
私に彼女の表情が見える様に。
両親にも下の妹弟たちにも見分けがつかないらしいのだが、私たちはお互いにお互いの感情が目に見えて分かる。
「それで…エルの見解は?」
「十中八九、ソルシアナは何も知らないだろう」
「うん、同感」
同意する妹。
私がエントランスではなく、別の場所に向かって歩き始めると、何処へ向かうかも尋ねずに着いて来る。
言わずともフィーには分かる。
私たちは昔からそうだ。
言わなくとも分かる。以心伝心。時折、兄妹ではなく実は双子なのではないかと思う程だ。
目的の場所まで来ると、フィーは自分の定位置に向かう。
書庫の再奥。書物が何も入っていない古い本棚の後ろに隠された“室内の”バルコニー。
何代か前の当主が屋敷を増改築した際に、設計上のミスから生まれたデッドスペース。そこは幼い頃から私とフィーが秘密の会議をする時に良く用いた場所だった。
フィーが東側、私が西側の手摺に寄り掛かると、それを合図に会話が再開される。
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