第0話「ある父の記憶」

2/10
2980人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
子供たちは今でこそ私を恐れはしないが、それでも子供らしからぬ敬意を持って接してくる為、私もその様に対応せねばならない。 個人的にはもう少し子供らしく、父親に甘えてみて欲しいのだが……そう思って5歳の息子に「何かやりたい事はないか?」と尋ねると彼は眉1つ動かさず「次の一族会議に同席させて欲しいです」と答え、娘に「何か欲しい物はないか?」と尋ねると「新しい魔導書が欲しい」とお願いされた。 我が子ながら自立心が強いにも程がある。 子供は子供らしくして欲しいのだが、私の教育が間違っていたのだろうか。 溜息をつきたくなる。 そんなこんなで。 現在、私にとって子供とは赤ん坊の頃には私を恐れて泣きじゃくり、少し経つと私を真似て表情筋を死滅させる変わった生き物として認識せざるを得ない状況となっていた。 友人や同僚たちから「娘から『大きくなったらパパと結婚するの!』と言われた」とか、「息子から『大きくなったらパパみたいに、カッコイイヒーローになるんだ!』と言われた」とか……そういう話を聞くと、何というか……いや、別に羨ましくはない。羨ましくはないが…… 何か……何かだ。 その話を聞いた後。家族で食卓を囲んだ際に、ふと思い立ってその話をしてみた所、息子たちの反応は予想通りというやつで 「ヒーローって……“魔術師”でしょう?今日日の子供は、正しい言葉もまともに選べないのですか?」 息子よ、お前もお前の言う所の “今日日の子供”の筈なのだが……私の記憶違いか? 「お父様と、結婚?……法律上、無理。親等が近過ぎる」 娘よ、まさか4歳で民法を……? つい最近まで絵本を読んでいたお前は何処に……? 結局ーー「まあ、可愛らしいこと」と笑ってくれたのは妻だけで、私に似てしまった我が子たちの笑顔や子供らしい言動を引き出すには至らなかった。 別に子供らを責めるつもりはないが、私だって人の親なのだから少しくらい子供というものに甘えられてみたいという願望くらいある。 叶わない事を思い描くのも虚しいだけだが。 そんな事を考えながら待っていると、隣室から赤子の泣き声が聞こえた。 「産まれたか」 口から出たのは事実を確認する様な声音。 一応、私なりに喜んではいる。が、この後の事を考えると憂鬱だ。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!