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悲劇
夏子は、急にものすごい剣幕で怒りながら言った。
「あんたの都合に納得するわけないじゃない!とにかくあたしは、真司と結婚するから!それじゃあね!さよなら!」
太一は、真司という名前を聞いて、飛び跳ねた。それは、小学校から一緒で今でも仲が良い幼なじみの名前だった。体がわなわなと震えた。
「ふざけんなよ!裏切りやがって!しかも真司って、俺の親友じゃねえか!!」
「そうよ!ずっと話聞いてくれて傍にいてくれたの。誰よりもあたしのこと考えてくれて、誰よりも愛してくれている。そういうことだから!そんなあんたの指輪いらないし、とっとと早く出て行って!」
「待てよ!愛してるってなんだよ!そんな指輪ってなんだよ!弟達と選んでお前に合うの探して……」
「だから、それがウザいのよ!もうあんたの兄弟話にはウンザリ!兄弟達もろくでもないじゃない!」
太一は、怒りで体中が震えた。自分のことだけではなく、兄弟のことまで侮辱され許せなかった。
「ふざけんな……俺は許さねえぞ!俺を裏切って弟達を馬鹿にして!」
「は?許して貰わなくて結構!あんたなんかに………うぐっ!!!」
太一は、横にあった電気コードで夏子の首を思い切り絞めた。それは殺意を持った男性の、とてつもなく強い力だった。
「や……めて……離して……くるし……」
「俺は許さねえぞ!絶対に許さねえ!裏切りやがって……馬鹿にしやがって!……死ね!死ね!死ね!死ねー!!!」
「うっ……ぐ、ぐるし……」
太一はその後も、腕の力を緩めることはなかった。夏子の意識がなくなっても、太一は首を絞め続けた。何時間も絞め続け、マンション中に響き渡る声で叫び、凄まじい声で泣いた。太一にとって、高校生の時から付き合ってきた夏子は、生涯でたった一人の愛した女性だった。
最後に太一は、夏子を殺した電気コードで自分の首をくくり、夏子の部屋で首吊り自殺した。
そしてその日、長男だけではなく、中野家の仲良しだった4兄弟は全員死亡した。
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