チョコレートを貰えなかった男

長男 中野太一

　中野家の4兄弟は、とても仲が良かった。4人の両親は、子供達が幼い頃に交通事故で亡くなったが、兄弟皆で協力し合い、助け合って現在まで生きてきた。

　その中でも、長男太一は一家の大黒柱で、兄弟達が貧しいながらも楽しく生きることが出来たのは、全て彼のおかげだった。太一は、弟達の父でもあり母でもあった。性格も真面目で、人一倍責任感も強かった。

　太一は、弟達が全員18歳になるまでは結婚しないと決めていた。そして、2月14日の今日が末っ子である雅也の18歳の誕生日だった。

　太一には、高校2年から付き合っている彼女がいる。同じ高校の同級生だった夏子だ。現在太一と夏子は32歳なので、かれこれ付き合って15年くらいになる。結婚の話はだいぶ前から出ていた為、長い間待たせてしまった。だが、夏子は文句も言わずに待っていてくれた。また、32歳という年齢は、結婚するにはちょうど良い歳だと太一は思っていた。

　そして今日、弟達を連れて婚約指輪を買いに行った。もちろん、夏子にプロポーズするためだ。弟達は、今まで長男が結婚出来なかったのは自分達のせいでもあると責任を感じ、長男の結婚費用を3人で貯めてくれていた。それを聞いた太一は、嬉しくて号泣した。

　今でも4兄弟は同じ家で暮らしている。3人に笑顔で見送られ家を出た太一は、急いで夏子の家に向かった。