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「いい」天気
六月の上旬、そろそろ夏の雰囲気が漂いだした頃、毎年やってくるあの時期。湿った空気、止まない雨。そう、梅雨だ。そして今日、赤松優はその影響を受けている。
(何で外出時に限ってこんな夕立にあうかな。びしょびしょだよ。まったく……こんなことなら雨具持ってくればよかった)
夕立に降られ、バス停にある小さな小屋で雨宿りをしていると、何やら足音が近付いてくる。どうやら走ってくるようだ。大方その人も雨具を忘れたのだろう。
「お?何か見覚えのある面だな」
「何?枯淡も降られたの?」
「ばっちり大当たり。やっぱり雨具持ってくるべきだったぜ」
「ところで、今日は葵は一緒じゃないのかい?」
「おいおい、仲が良いとは言え、四六時中一緒にいるわけねぇだろ」
じわりじわりとくる暑さが、夕立の寒さで中和される。小さな小屋の入り口から入る肌寒い風。トタン屋根を叩く雨雫。いやだいやだと思っていた梅雨だが、存外悪いものでもないような気がしてきた。
「いや~、にしてもいい天気だな」
「は?何言ってるん?今雨だよ?」
「だからだぜ。〝いい〟天気だろ?」
優は首をかしげる。今空は雨が止むどころか晴れ間すら見えてこない。
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