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え、いいの。
「おはよう」
登校早々、園部が俺に話しかけてきた。
「返事は考えてきてくれた?」
バレンタインデーの次の日にクラスの真ん中でそんなことを言うもんだから、ざわざわと周りが勘違いしだした。「なに? もしかして告白?」なんて声が聞こえてくる、俺も騙されたくらいだから仕方ないけど、こいつはもう少しタイミングというものを計ったほうがいいと思う。
「ああ、入部の件な」
俺は周りにも聞こえるように少し大きめの声で言った。
なーんだ、と周りのざわざわが鳴りを潜めた。恋愛事以外に他人に興味のない年頃なのだろう。俺もだが。
「いいよ」
俺は名前と電話番号の書いた入部届を渡す。
「え、いいの。大丈夫?」
戸惑いながらも園部は受け取る。
「なんでだよ」
「いや、説明くらいは求められると思ってて」
それもそうだ。まず『カップル殺す部』なんて聞いたことないけど何してんだよ、って訊くのが普通だよな。そもそも学校に認められてんのか、それ。
でも同時に、そんなことはまあいいか、と俺は思っていた。
そう思うのは本当に単純な理由だ。
――きらきらしていたのだ。
あの時、園部千代子は本当にきらきらしていたのだ。
その人と同じ部活動に入って。
その人と同じ青春を送れるなら。
断る理由がないじゃないかと思ったのだ。
あの時のきらきらは偽りなく、自分の気持ちだった。
「で、何してんの、その『かぷころ』ってのは」
「変な略称つけないでよ。『カップル殺す部』ね」
そっちのほうが変だろう、と思うのは俺だけですか?
「じゃあその『カップル殺す部』って何」
うーん、そうね、と園部は腕組みをする。
「簡単に説明するけど、この世に存在するカップルを駆逐する部よ」
「詳しく説明してもらえる?」
えー、と少し不満そうな園部。なんでだよ、そんな説明で人が納得すると思ってるのか。人間なめんな。
そこで、きーんこーんかーんこーん、と小さくノイズの入ったチャイムが鳴った。
「じゃあ詳しい説明は放課後に。17時に図書室に来て」
それだけ残して席に戻った。
放課後も図書室も、青春っぽいことが起こりそうなテンプレシチュエーションではあるけれど。
『カップル殺す部』が全てを台無しにしていた。
はぁ。
俺は小さくため息をつく。
今回の呼び出しは昨日とは対照的に、どれだけ期待しようとしても何故かできなかった。
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