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不安が際限なく彼女を襲う。考えれば考えるほど、恐怖に蝕まれていくようだった。
それに、視線が、痛い。
何人かが彼女を視線に捕らえていた。あたかも睨み付けられているかのようで緊張もしていた。一人きりで呆然と立ち尽くしているのであれば誰だってその存在は気になるところではあるのだが、その真意は彼女にはわかる由もない。ただ彼女には、不様な姿だと嗤われているように感じて、ひたすらに辛かった。
すぐに立ち去りたい思いだったが、身体が動かなかった。どこに行けばいいのかもわからない。度重なる苦痛に軽くパニックに陥っていた。持ち抱えたままの教科書が、重たい。
「ねえ大丈夫?」
そんなとき、遂に彼女に声が掛けられた。
誰? そう思うも知っている訳がない。その声は男性のものだった。この学校に男性の知り合いはいない。
彼女はゆっくりと顔を上げた。いったい何をされるのだろう。身の危険を案じながらゆっくり、ゆっくりと。
「君、どうしたの?」
その男性(ひと)の表情(かお)は、とても穏やかで優しかった。少なくとも、彼女を笑い者にする為に声をかけたのではない。そう見て取れるくらいには柔和だった。彼女より身長が高い彼を見上げる形で、しばし彼女は彼の表情を見詰めた。言葉を探した。
「あの……」
だが言葉が上手く紡げない。優しそうな人だとは思いこそすれ、初対面の人に流暢に話せるほど彼女は友好的な性格ではない。性質、と言ってもいい。緊張して、どう応えればいいのかわからない。心を閉ざしているというより、開け方がわからないと表現した方が正しいのかもしれない。
「君、大丈夫? すごく辛そうな顔をしているけど」
その声色はとても耳に入りやすい、心地好いものだった。だが明るいというものではなく、真剣な響きが孕んでいる。自分のことを本気で心配してくれていると感じさせるそれだ。
「あの……えっと」
どう、説明すればいいかわからなかった。言葉が出て来ない。
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